株式会社リクルート 就職みらい研究所所長 栗田貴祥氏に聞く
企業と学生とのシンプルな出会い、インタラクティブな理解に向けて
圧倒的な進化を目指す「リクナビ」
オンライン採用が定着したことで、企業と学生の出会いの数は以前と比べて格段に増えた。2023年卒新卒採用ではオンラインと対面の使い分けも進んだが、2024年卒採用はどのような傾向が予想されるのか。「リクナビ」を運営する株式会社リクルート HR本部の大家純一氏と、就職みらい研究所 所長の栗田貴祥氏に、新卒採用の最新動向と次年度に向けた事業方針、企業へのアドバイスを聞いた。
オンライン化を要因に早期化、長期化、過密化が顕著に
―― 2023年卒採用での企業や学生の動きをお聞かせください。
栗田:2023年卒採用は、大卒求人倍率が1.58と前年から0.08ポイント上昇し、企業の採用意欲は堅調に回復しつつあります。学生の内定率も、7月1日時点で83.3%と、現行の就活スケジュールとなった2017年卒以降、最も高い数字になっています。
オンライン採用で採用活動の各プロセスが短縮化されたこともあって、企業の内定出しの開始時期は前倒し傾向が見られ、調査では3月が最も高い割合でした。一方、学生の状況を見ると、初めて内定を取得した時期は4月が最も多いのですが、就職確定先からの内定を得たのは6月が最も多く、ずれがあります。学生には、大手企業の選考結果を待って内定承諾を決めたいという心理があり、就活を早期に始めても、6月ごろまでは活動を続けていました。
また、オンライン化によって就活が効率化し、エントリーが増加。学生はしっかりと計画を立て、さまざまな企業の選考に向けて準備をしなくてはいけなくなりました。早期化・長期化に加え、過密化が2023年卒の傾向といえます。
――内定辞退率はいかがですか。
栗田:同じく7月1日時点で、前年より2.8ポイント増えました。内定取得企業数は平均2.56社で、2021年卒・2022年卒と比べても増えています。また、内定辞退企業数が1.34社となっており、2社以上辞退した比率も32.9%と直近3年で一番高い水準まできています。企業にとって、予想以上の状況だったと思います。
――他にも、学生の動きで目立った点はありますか。
栗田:最終面接を対面で行う企業の割合が増えたのですが、多くの学生はポジティブに受け止めていました。企業へ実際に訪れ、どのようなオフィスで、どういう人と働くのかを知っておきたいと考えているようです。
――2023年卒採用に成功した企業に、傾向は見られますか。
栗田:ポイントは、情報開示のあり方です。成功していると思われる企業は、学生が欲する情報をしっかりと伝え、学生にそれが届いている印象があります。逆に、苦戦している企業は、学生が欲する情報をしっかりと伝えきれず、学生の満足度につながっていないのではないかと考えています。
求める能力や資質を具体的に伝えるだけでは不十分です。採用プロセスの中で、面接でどういう質問をするのか、学生のどこを評価したいのかを明らかにしている企業からは「ミスマッチが少ない」といった話を聞きます。情報開示の粒度や頻度を考慮しながら伝えるなど、自社に合った人材に来てもらえるように工夫することが重要です。
時間効率を重視する学生とのコミュニケーション設計がより重要に
―― 2024年卒採用の見通しをお聞かせください。
栗田:2024年卒採用でも、企業の採用意欲は堅調に推移すると見ています。今年5月の調査では、採用を予定している企業は8割弱でした。採用数を「増やす」企業は、「減らす」企業より5.9ポイント多くなっています。7割ほどの企業は、採用数を変えないと回答しています。
多くの企業は、引き続き採用活動でオンラインの施策を拡充していくと思います。対面との使い分けも広まる見込みです。オンライン採用の浸透によって学生からのアプローチがとても増えているので、求める人材をいかに効率的に獲得していくかを考えなくてはいけません。これまでとは違った選考のあり方が求められます。
――2024年卒採用を成功させるために、企業は、どのように動けばいいのでしょうか。
栗田: 2023年卒の先輩たちを見て、「売り手市場だ」と感じている学生は増えていると思います。企業は選ばれる立場にあり、求める人材に対して、自社の魅力やポイントをどれだけうまく伝えられるかが問われます。そのためには、コミュニケーションの設計が非常に重要です。
今の学生の特徴としてよく聞くのが「タイパ」、つまりタイムパフォーマンスです。効率を求めてコンテンツを倍速で見ることが当たり前になっています。企業の説明会も、こうした志向に合わせて、内容や発信方法を一層工夫しなければ、学生の目に留めてもらえない可能性があります。
学生と企業が出会うまでの期間やコストを改善し、「決めるをインタラクティブに」
―― 2024年卒採用に向けた、貴社の商品やサービスコンセプト、特徴をご紹介ください。
大家:今後、事業運営を進める中で、大事にしたいキーワードが二つあります。一つは、「出会うまでをシンプルに」です。学生と企業が「会う」までの過程は、双方にとって “時間”と“コスト”の制約、“心理的負荷”が大きすぎると思います。この三つの「不」を解消し、出会いまでの過程をシンプルにしていけるようにサービスを進化させます。
就職メディアが、紙からネットになって四半世紀が経ち、学生は飛躍的に多くの企業に出会えるようになりました。その一方で、あまりにも情報が多く、自分に合う企業を探すのが難しい状態にもなっています。自分で企業を探せる学生はいいのですが、そうでない学生もいます。そういった学生も自分にフィットした企業と出会えるように、新しいルートを作りたいと思っています。簡単に見たい企業、聞きたい企業、知りたい企業に出会えるようになれば、時間の大幅な削減にもつながります。
もう一つのキーワードが、「決めるをインタラクティブに」です。現状では非常に短い時間で、企業と学生の双方が見極めをしなければいけません。シンプルな工程で短い期間に出会えるようにし、その分コミュニケーションを取る機会や時間を増やす。そうすることにより、お互いの理解が深まったうえで決めることができると考えています。
――具体的に、どのようなサービス・取り組みを考えていらっしゃいますか。
大家:数年をかけたサービスの改善に、昨年から取り組んでいるのですが、その柱は三つあります。一つ目は、出会いのシンプルさやインタラクティブな決定を突き詰めることを目的とした、オンライン合同説明会の拡充です。企業や学生の参加数、一度に出会える量の拡大をテーマに、アップデートしていきます。
二つ目は、採用管理システム「riksak(リクサク)」による面談や面接調整の負担軽減です。既に昨年からスタートしていますが、導入していただいた企業の声を参考に、より使いやすく、よりシンプルに使えるようバージョンアップさせています。導入社数が増えているので、今期はどれだけ使い込んでいただけるかにチャレンジしています。
三つ目は、スカウト機能の強化です。通常のDMではなく、ダイレクトアプローチといわれるスカウトとして位置づけています。現在は学生のデータベースを増やすために、登録を促しているところです。現在は、前年同時期の3倍ぐらいまで学生の登録者数が増えています。
――2024年卒採用への活動を本格化する企業に向けて、メッセージをお願いします。
栗田: 2024年卒の学生は、入学当初からコロナ禍の影響を受け、現在もさまざまな制約がある中で就職活動をしています。その点を踏まえて、学生に寄り添って選考することが、結果的に相互理解を深めると思います。学生優位の状況になりつつあるからこそ、学生の根っこにある価値観や大事にしたいものは何かという本質的な部分に立ち返って、採用を進めていかれてはいかがでしょうか。
大家:企業から、「今の学生は」とか「今どきの若者は」という枕詞とともに、ネガティブな評価が寄せられることがあります。私は、若者がそのような状況になっているとしたら、それは現在の就活や教育を作り出している社会や、大人の責任だと考えています。これからの採用がどうあるべきか、企業の皆さまと一緒に考え、よりよい採用の実現に取り組んでいきたいと思っています。
企業データ
社名 | 株式会社リクルート |
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本社所在地 | 〒100-6640 東京都千代田区丸の内1-9-2グラントウキョウサウスタワー |
事業内容 | 日本国内のHR・販促事業及びグローバル斡旋・販促事業 |
設立 | 2012年10月1日 |
代表者名 | 代表取締役社長 北村吉弘 |