学生による「厳選就活」の年。企業はますます混迷を極める。
プレ期からの学生とのコミュニケーション支援を推進する「キャリタス就活」
2019年卒採用が売り手市場だったとはいえ、3月にセミナー参加、エントリー提出、筆記試験のピークが集中するとは思っていなかった人事担当者も多かったのではないだろうか。「ここまで前倒しが進むとは」というのが本音だろう。その勢いは。2020年卒採用でさらに加速しそうな気配だ。では、企業はどんな戦略を打ち出せばいいのか。施策見直しのポイントはどこにあるのか。株式会社ディスコが運営する就職情報サイト「キャリタス就活」編集長で、新卒採用における企業と学生の動向に精通している駒形一洋氏に聞いた。
売り手市場が加速。より重要性を増したプレ期のアプローチ
―― 2019年卒の採用市場の印象をお聞かせください。
想定通りの売り手市場でした。インターンシップ中心に早まった就職活動の流れが、より進んだ感があります。内定率もここ数年早い段階から、過去にないほど高い数字を維持しています。全体としてはうまくマッチングできていると思われますが、売り手市場ということで、学生の目線がかなり高くなっていたケースも見受けられました。
―― インターンシップの動きから分析していただけますか。
当社の調査では企業の実施率は7割、学生の参加率は8割でした。いずれも、昨年より進んでいます。もはや大多数の学生にとって、インターンシップに参加するのは当たり前。特に1dayインターンシップの参加率が高まっていて、8割を超えました。より手軽なインターンシップに集中しているのも、今年の特徴です。参加した時期は、夏と冬が多く、複数のインターンシップに参加しています。
―― 3月以降の動きはいかがですか。
新たに受けたい企業を探す動きがほとんどなくなっていました。2月くらいまでインターンシップに参加し、その後就職サイト上で気になる企業を探すという動きへとシフトし、3月からは企業を絞り込んで会社説明会に参加したり、エントリーしたりするようになりました。
―― エントリー数はどうでしたか。
今年はエントリー数がさらに減少しました。一人あたり30社程度で、2015年卒採用と比べると半数以下です。3月よりも前のプレ期間のうちに、ある程度の企業研究を済ませていて、絞り込みが進んでいるといえます。2019年卒は3年次の6月からインターンシップが始まっているので、半年以上かけて30社まで絞り込んだことになります。母集団形成に苦しむ企業が多かったこともあり、選考初期のプロセスでは通過率はあがっていたようです。逆に学生からすると、どんどん受かってしまうので新たに企業を探す必要はありません。2月末までにどこにエントリーするかを決めているので、その期間で学生にPRができていないと、埋没したままになってしまうといえます。
―― 前倒しが顕著ですね。
セミナー参加もエントリー提出も筆記試験も、ピークが3月後半に集中しました。企業は3月に入るとセミナーに学生を集めるのに苦労していました。面接開始までも3月がピークになっていました。
―― 業界別ではいかがですか。
業界によって動き出しに差がありました。IT・情報処理系は動きがスピーディーでしたね。金融系には従来からの経団連ルールを守っている企業が多くありました。学生は、こうした業界特有のスケジュールを最初から把握していないと日程調整などで苦労し、本気で受けたい企業を受けられなかったと思います。
―― 選考中の学生の動きに特徴はありましたか。
学生は複数企業を並列で受けることが少しずつ苦手になってきています。最初のエントリー企業を受けて、その結果が出たら次を探す。あれこれ受けるのではなく、白黒ついてから次の企業を受けている印象です。
―― 内定率の推移はどうですか。
6月上旬あたりまでは前年を上回っています。4月、5月が結構高く、内定出しの前倒しが顕著でした。
―― 企業の内定者充足率、満足感はいかがですか。
基本的には今年も大変だった、という企業が多いと思います。多くの企業は母集団不足だったという不満を持っています。内定辞退者は選考中も含めて、トータルで4割程度の企業が増えました。感覚としては、企業は内定辞退者が増えそうなのを見越して、内定者を多めに出すように構えていたが、それでも不足した企業が多く見られました。内定出しも年々早まっているので、辞退防止のためのフォロー策も重要度が増しているといえるでしょう。
―― 2019年卒の採用活動におけるキーワードを上げていただけますか。
学生による「厳選就活」の年でした。絞り込みが進んだということです。ただし、それが本当に厳選なのかは疑問です。それが二極化につながった、と言っても良いと思います。
インターンシップの実施・見直しに注力。より早期からアプローチ
―― 2020年卒採用の見通しを教えてください。
全体として、採用規模が拡大するのは間違いありません。2019年卒採用で充足していない企業が多いことから、採用スケジュールはより前倒しになるでしょう。1dayを中心にしたインターンシップは、採用広報活動として重要な意味をもってくるでしょう。言い換えれば、インターンシップの実施が多い8月以外では1月、2月がより活発化する可能性があり、エントリーがスタートする3月以前までに、自社への志望意欲を高められるかがポイントになってきます。
―― 企業はどう動くべきなのか、アドバイスをお願いします。
インターンシップの職業体験を通じて自社での就業イメージをしっかり提供できるぐらいのプログラムを用意すべきです。1dayプログラムなどで気軽に開催する企業も多く、会社説明会的なインターンシップが増えていますが、それでは学生をひきつけることはできません。学生はただ参加するだけでなく、しっかりとコミュニケーションをとれる、成長を感じられるインターンシップを選びたいと思っています。重要なのは、フィードバックがあること。たとえばフィードバックをプログラムに組み込んだり、インターンシップの成果を先輩から伝えてあげたりしていくことがポイントです。
さらには、インターンシップに参加した学生との3月までの継続したコミュニケーションも重要です。学生の層や意識のレベルに合わせてさまざまな情報や機会を提供し続け、業界や企業への興味を喚起していく必要があります。本当に自社に応募・入社したいと思ってくれる有効な母集団を作っていくという視点で、採用広報を組み立てていってほしいと思います。
―― 学生に対して、何かアドバイスがありますか。
まずは、インターンシップにしっかりと参加して、視野を広げることが重要です。売り手市場ということもあって、大手志向になりがちですが、最初からあまり可能性を絞り込まない方がいいでしょう。実施企業が増えても、一社あたりのインターンシップ参加枠はまだまだ少なく、人気企業なら、そもそも参加できないこともあります。3年次の8月あたりは、働くこととは何か、どんな業界があるのかを知ることを目的にして広い視野で活動し、複数のインターンシップに参加することをお勧めします。できるだけいろいろな業界、規模の会社のインターンシップを探して、バラエティーに富んだ体験をしてみてください。そのためにも事前にプログラムをよく理解した上で参加してほしいと思います。
学生とのコミュニケーション効率を高めるためにLINEを採用に活用
―― 2020年卒採用における、貴社の取り組みをお聞かせください。
就職サイトにおけるプレ期間の役割が年々高まってきています。3月にエントリーシートの締め切りや会社説明会などが一気にピークになってくるので、エントリー解禁の3月までに、学生がしっかりと業界研究、企業研究ができる環境づくりを用意しています。
―― 新しいサービスとして、どんなものをお考えですか。
企業にとってはインターンシップで接点ができた学生を、3月までしっかりとつなぎ止めておくことが大きな課題だといえるでしょう。今回、キャリタス就活のオプションとして、学生と企業との距離感を縮めることができるLINE@を使った採用コミュニケーションツール「キャリタスContact」をリリースしました。近年の学生は、あまりメールに反応しなくなっています。一番見てもらえるのはLINEです。通常の「LINE@」では、細かい属性、セグメントに分けてのコミュニケーションが難しいのですが、「キャリタスContact」を使うと学生を属性別に管理でき、ターゲットごとにコミュニケーションをとることができます。
また、チャット的な機能もあるので、学生が「セミナー」と送信してきたら現在受付中のセミナーリストを応答してあげるなど、さまざまな形で業界・企業の理解度・志望度を高めるための情報を提供することも可能です。社会人や大学OB・OGと学生をつなぐ「VISITS OB」とあわせて、コミュニケ―ションを取った学生にLINE上でもフォローして歩留まり率を高める、学生を育成する、という目的で活用してほしいですね。キャリタス就活には、企業が学生に「気になる」というサインを送る機能があるのですが、この利用もさらに推進していきます。
また、「キャリタスUC」という求人票管理を主とした学校用キャリア支援クラウドサービスも強化しています。これは、企業が作成した求人票を任意の学校に配信するというものです。今まではWeb上でその情報を公開・配信するだけでしたが、今年の10月からはエントリー受付機能を実装しました。これによって、その学校独自の就職サイト、就職プラットフォームという世界観を作れるようになりました。就職情報サイトで幅広く告知して、とりあえずは母集団を作るのもいいですが、セグメントされた領域やターゲットの学生とダイレクトにコミュニケーションをとって、そこから応募を集めるのも有効な施策といえます。
バックナンバー/2018年卒採用インタビュー
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企業データ
社名 | 株式会社ディスコ |
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本社所在地 | 〒112-0004 東京都文京区後楽2-5-1 飯田橋ファーストビル 9階 |
事業内容 |
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設立 | 1973年10月1日 |
代表者名 | 代表取締役社長 新留 正朗 |